社労士・兵藤恵昭の独り言

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家政婦は労基法適用除外?労災過労死裁判

(労災過労死裁判)

2022年9月29日、過労死で死亡した家政婦の夫(xさん)が、労災適用による給付請求棄却に対する2020年3月本訴取消訴訟に対して、東京地裁が判決をだした。

判決は、「家事使用人は労基法適用除外のために、労災が適用されない」との理由で、労災審査会の給付棄却を支持する判決である。家事使用人は、家政婦紹介あっせん事業所との雇用契約でなく、派遣先の家庭との雇用契約であることをその根拠とした。

(事案の内容)

死亡した家政婦のAさんは、2013年8月、家政婦紹介あっせん業・㈱山本サービス(B社)との間で、非常勤の家政婦兼訪問介護ヘルパーとして労働契約を締結した。山本サービスは労災特別加入はなく、特別加入の労災保険適用を受けていない。

その後、同僚家政婦Dさんの休暇代替え要員として、2015年5月20日~5月27日まで1週間、Cさん(93歳)宅に泊まり込み、介護、家事業務を実施した。即ち、家事業務とともに訪問介護サービス業務を提供した。

業務内容は、午前0時~午前5時までの休憩時間を除く19時間を家事業務及び介護業務の時間として指定されていた。このうち、介護業務の労働時間は、午前8時から午前9時40分まで、午後0時から午後1時10分まで、午後3時30分から午後4時40分まで、午後8時から午後8時30分までの合計4時間30分(1日あたり)とされた。それ以外が家事業務の実施時間とされた。

AさんはCさん宅の業務を終えた2015年5月27日、都内入浴施設のサウナ室で倒れ、搬送先病院で急性心筋梗塞又は心停止により死亡が確認された。

それから2年後、2017年7月Aさんの夫(Xさん)は渋谷労働基準監督署に対し、B社の業務に起因する労災保険法に基づく遺族補償給付、葬祭料を請求した。

渋谷労基署は2018年1月、Aさんは家事使用人として介護、家事に従事しており、労基法116条により適用除外され、労災保険法も適用されないとして不支給処分を決定した。

Xさんは2018年4月、不支給処分を不服として審査請求した。同年9月、東京労災保険審査官は審査請求を棄却、更に2019年9月、再審査請求に対しても棄却した。Xさんは、2020年3月に不支給取消を求めて本訴提起した。2022年9月29日が今回の判決である。

東京地裁判決趣旨)

簡単に言うと裁判の結論は、「訪問介護サービスを提供した労働時間は過労死認定の算定基礎となるけれども、家政婦として家事及び介護を行った労働時間は算定基礎にならない」と結論付けた。

7日間のうち、前者の訪問介護サービスの労働時間は31時間30分、後者の家事・介護の労働時間は101時間30分である。101時間30分から週法定労働時間40時間を差し引くと、週61時間30分、月換算すると、月あたり時間外、休日労働時間は272時間強となり、過労死認定基準に該当する。

労基法によれば前者の訪問介護サービスにおけるAさんの使用人はB社である。一方、後者の家事・介護業務の使用者はCさんであるとする。従って、前者におけるAさんの地位は普通の会社に雇用される労働者であるが、後者におけるAさんの地位は個人家庭に雇われて働く家事労働者であるという理屈である。

(Xさん代理人の主張)

Xさんの代理人は、家事使用人の労基法適用除外は憲法違反、さらに家事業務と介護業務は明確に区分できず、一体として提供されている。故にいずれもB社の業務に当たると主張した。

(裁判所の主張)

裁判官は、家事業務と介護業務の労働契約は別々であると代理人の主張を一蹴している。

(コメント)

裁判所、代理人共に家事使用人の認否のみを考えているが、問題はB社の家政婦あっせん紹介事業所そのものが元々は労基法の適用業種であった。

1947年の職業安定法施行により、労働供給事業が全面禁止するようになった。そのため、家政婦派遣事業が無理やりに有料職業紹介事業に位置づけが修正させられたことによると濱口桂一郎氏は主張する。(家政婦の歴史・文春新書)

家政婦派遣事業は本質的に、登録型労働派遣業である。故に労働者の雇用契約の相手先は、B社であり、家事使用者ではない。法律施行によるこじ付けによる矛盾が表面化したものである。故に今回の判決は矛盾の結果であり、修正されるべきであろう。

(参考資料①)判例解説・あすらん社会保険労務士法人

(判例)介護ヘルパーによる家事業務は「家事使用人」に該当するので労働者災害補償保険法は適用されないとされた例|あすらん社会保険労務士法人|あすらん株式会社

(参考資料②)判決文

091529_hanrei.pdf (courts.go.jp)