社労士・兵藤恵昭の独り言

団塊世代の社会保険労務士・兵藤恵昭のブログです。兵藤社会保険労務士事務所・内容は雑多です

制服の着替え時間は労働時間か?

家具小売り大手のイケアの従業員制服着替え時間の賃金未払いがニュースになった。

「工場の門でタイムレコーダーを打刻すれば、そこから労働時間か?」という問題もある。

労働時間であるか、否かは労働者の行為が使用者の指揮命令下にあると客観的に評価できるかで決まる。

従って、入門時間に遅れれば、遅刻として制裁あれば、労働時間であり、始業時間までに職場に来ればよいとされていれば、職場に着いてからが労働時間になる。事実としての取り扱いを見て判断するのが妥当である。

更に「仕事前の準備時間は労働時間か?」これには有名な最高裁判例がある。「平成12年3月9日三菱重工業長崎造船所事件」である。判例は下記のように判断した。

(1)移動時間

  1. 入退場門から更衣室までの移動時間
  2. 午前の終業時刻後(午後の始業時刻前)に作業場(食堂)から食堂(作業場)までの移動、、一時的に作業服を離脱(再装着)する時間
  3. 手洗い、洗面、洗身、入浴後の通勤服着用時間
  4. 更衣室から入退場門までの移動時間

以上の時間については、使用者から義務付けられ又はこれを余儀無くされているとは言えないとして労働時間と認めないとされている。

一方で、

(2)労働時間に該当する時間

  1. 作業前の作業服、安全保護具の着用
  2. 更衣室から作業場への移動
  3. 資材の受け出し、散水等の準備行為及び作業後の作業場から更衣室への移動
  4. 作業服、安全保護具の脱離

以上の時間は、いずれも業務に必要な行為として労働者に義務付けられているとして労働時間に該当するとされている。

イケアの制服着用時間は着用が義務化されており、当然に労働時間である。

2020年4月民法施行により、施行日以降に賃金支払期日が到来する賃金支払請求権の時効期間は従来の2年から5年に延長した。但し当面は3年とされている。

労組主張の未払い賃金請求権はその意味で当然であろう。

大手企業でさえ未払い賃金が判明する。時効まで3年分の未払い額はかなりの金額になるだろう。

今回の事件は、労働基準監督署に未払情報又は従業員からの申告があったと思われる。労働基準監督署は情報、申告あれば、当然に定期監督、臨検監督に入り、調査の上、事実を把握する。2020年申告処理件数のうち、賃金不払いは17,580件にも上る。

労基署の労基法適用事業所は400万事業所に及ぶ。一方で毎年監督指導事業所数は15万件、全体の4%程度である。これは労働基準監督官の人員不足が大きく影響している。

イケア、着替え時間の賃金払わず 9月から支給へ |毎日新聞 (mainichi.jp)