社労士・兵藤恵昭の独り言

団塊世代の社会保険労務士・兵藤恵昭のブログです。兵藤社会保険労務士事務所・内容は雑多です

免税事業者は消費税を益税として横取りしている?

(消費税は預り金か?)

2023年10月1日よりインボイス制度がスタートした。課税売上高1,000万円以下の中小事業者も課税事業者となるか?否か?の選択を迫られている。課税事業者となれば、消費税を仕入税額控除できるが、消費税分の売上が減少して、納付税額分の損失が発生する。

政府・国税庁インボイス制度を免税事業者の「益税」である税金横取り防止、税負担の公平確保と主張してきた。消費税は消費者からの「預かり金」か?免税事業者は益税の横取りか?

今日は「消費税が預り金であることを否定した東京地裁平成元年(ワ)5194号判決とその問題点」を解説します。

消費税が”預かり金”ではないという事実について、実は過去平成元年に争われた裁判で、当時被告だった政府、財務省が”預かり金ではない”と主張しています。

2023年10月のインボイス課税導入を控え、消費税=預かり金という誤解や嘘に基づいた「消費者が納めた消費税を免税事業者が横取りして納税しないのはズルい」という考え方を、インボイス導入の意義として多くの人が信じています。

実際は今から30年以上も前の1989年裁判において、当時の政府・大蔵省および自民党が完全否定していたのです。

(判決の概要)

東京地方裁判所 平成元年(ワ)5194号判決

<主文>

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

(中略)

三  被告らの主張

1  請求原因1(二)について

消費税法五条一項は「事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある。」と規定しているのであって、事業者が納税義務者であることは明らかである。

税制改革法一一条一項は、右の点を前提にしたうえで、新たに創設される消費税が転嫁を予定したものであることを周知し、国民の理解を求めることが必要であると考えられたため、規定されたものである。

すなわち、税制改革法は、個別の税法において規定することに馴染まない今次税制改革の趣旨、基本理念及び方針を明らかにし、かつ、簡潔にその全体像を示すことにより、右税制改革についての国民の理解を深めることに資すること等を目的として制定されたものであり(同法一条)、個別税法の一つである消費税法に対する関係において、講学上のいわゆる上位規範に当たるものではない。

ところで、消費税法自体には、従来の間接税の立法形式と同様、事業者に課される税の転嫁については規定を設けていない。しかしながら、今次の税制改革において消費税の創設は重要な意義を有しており、その円滑な実施と定着は是非とも必要であると考えられたことから、消費税の円滑かつ適正な転嫁の必要性を納税義務者である事業者のみならず消費者にも理解されるようにとの目的のもとに前記税制改革法に特に規定されたものである。

したがって、右規定は、消費者を納税義務者であると規定したものではないことは明らかである。

なお、政府広報「消費税って何でしょう」には、確かに原告ら主張のとおり、所得税あるいは法人税の計算上、税抜きで処理する場合には税額分は預かり金とし、課税仕入れに含まれる税額については仕入れ税額控除対象額は仮払金とすること等の記載があるけれども、これはあくまでも消費税相当額を企業会計上どのように取り扱うかという会計技術に関する説明であり、消費税の納税義務者の問題とは無関係である。

また、原告らの援用する各通達は、消費税法の施行にともない所得税法の所得計算等の適用関係について、その運用の統一を図るために発せられたものであり、所得税相当額は対価の一部を構成するものではないという解釈を前提としたり、あるいは法の明文に反して納税義務者は消費者であるとの解釈のもとに定められたものではない。

2  請求原因2(一)について

(一) 仕入税額控除制度

消費税は、諸費に広く薄く負担を求めるという観点から殆ど全ての国内における資産の譲渡及び貸付並びに役務の提供等を課税対象として、その取引の各段階毎に三パーセントの税率で課税する間接税であるが、生産、流通の段階で二重、三重に税が課されると、産業経済に対する中立性を損なうことになるので、このような課税の累積を排除しなければならず、そのためには仕入れ税額を控除する制度を採る必要がある。

ところで、仕入れ税額を把握する手段としては、事業者の事務処理上の負担の軽減を図るため、いわゆるインボイス(税額を別記した納品書等の書類)による必要はなく、事業者の帳簿記録や取引に際して交付を受けた請求書等によることとしている(同法三〇条七項)。

そこで、事業者が仕入れ取引を行うに当たり、逐一その相手方が免税事業者であるか否か等を確認しなければならないとすれば、その事務がきわめて煩雑になり、これを強制することは現実には殆ど不可能と考えられるところから、右確認を要しないとしたものである(同法三〇条一項、二条一項一二号)。

そして、租税に関する制度を創設あるいは変更するための立法においては、課税の公平の確保及び最小徴税費用等の租税原則を踏まえて、専門技術的判断のもとにそれらの諸要素の調整を図るとともに、社会経済及び国民生活等に対する影響をも勘案して、高度に政策的な判断をすることを要するのであるが、今次の税制改革において消費税法が採用した仕入れ税額控除制度は、新税制の適用を受ける事業者の事務負担への配慮という社会経済に対する政策的見地から、仕入れ税額の計算を仕入れ先如何にかかわらず一律に行うことを認めたものであって、十分に合理性があるものというべきである。

(二) 事業者免税点制度及び簡易課税制度

消費税は、我が国の企業にとって馴染みの薄いものであり、その実施に当たっては種々の事務負担が生ずるので、その軽減を図る必要があるところ、特に、人的・物的設備に乏しく、新制度への対応が困難であることが多く、かつ、相対的に見て納税関係コストが高く付く零細事業者に対しては、特にこの面での配慮がなされなければならないと考えられる。

以上の点を考慮して、事業者免税点制度が設けられたのであるが、免税点をどの水準に置くかは、立法政策の問題であり、基準期間における課税売上高が三〇〇〇万円という免税点は、小規模ないし零細企業者に対する負担軽減の趣旨からすれば、決して不合理なものではない。

簡易課税制度も、前記の事業者免税点制度と同様に、中小企業者の納税実務の負担軽減を図ったものであり、仕入れ控除額の計算を簡便に行えるようにするために設けられたものである。

その結果、基準期間の課税売上高が五億円以下の事業者については、実際の課税仕入れ価格に係る消費税額を計算することなく、課税売上高のみから納付すべき消費税額を計算することができることとなったのである。

この制度の適用範囲を何処で画するかは立法政策の問題であり、右の基準は、中小企業の事務負担への配慮という制度趣旨に徴すれば、決して不合理ではない。

(三) 過剰転嫁ないしピンハネの有無

事業者が取引の相手方から収受する消費税相当額は、あくまでも当該取引において提供する物品や役務の対価の一部である。

この理は、免税事業者や簡易課税制度の適用を受ける事業者についても同様であり、結果的にこれらの事業者が取引の相手方から収受した消費税相当額の一部が手元に残ることとなっても、それは取引の対価の一部であるとの性格が変わるわけではなく、したがって、税の徴収の一過程において税額の一部を横取りすることにはならない。

(結論)

判決の一部を抜粋しておりますが、色を付けた個所の(三)過剰転嫁ないしピンハネの有無の部分が、特に重要な箇所です。

即ち、消費税は消費者から預かった売上に対する「間接税」ではなく、売上から課税仕入分を差し引いた、利益+非課税経費(つまり人件費)に対する税金、つまり事業者の利益に対する税金「付加価値税」なのです。

2023年2月10日政府答弁で「消費税は預り金ではなく、免税事業者に益税は存在しない」と回答しました。

従って、政府主張のインボイス導入の根拠、必要性は失われたと言える。

今回のインボイス制度開始で、免税事業者の111万人が課税事業者登録をした。政府は、免税事業者424万人のうち、160万人が課税事業者に転換すると見込んでいます。

インボイス制導入による消費税増加は2,480億円。インボイス管理の手間コスト、免税事業者の廃業などマイナス面を見れば、費用対効果はマイナスです。

また消費税は付加価値に課税されるため、中小事業者は赤字でも仕入額に対応する消費税を払うことになります。課税業者に変更すれば、売上高がその分、減少する。

インボイス制度は無理やり免税業者を課税業者に変更させ、中小事業者は赤字でも課税される。大企業はコスト増に対応するため、値下げを要求する。つまり中小事業者だけを苦しめる実質的な増税と言えます。