社労士・兵藤恵昭の独り言

団塊世代の社会保険労務士・兵藤恵昭のブログです。兵藤社会保険労務士事務所・内容は雑多です

労働運動が犯罪行為になる?

「賃金破壊・労働運動を犯罪にする国」竹信三恵子著・旬報社2021年11月発行
著者は朝日新聞記者・編集委員(労働担当)を経て、現在和光大学名誉教授。「企業ファースト化する日本・虚妄の働き方改革を問う」岩波書店の著書がある。
本書は、産別労組である全日本建設運輸連帯労働組合傘下の関西地区生コン支部(関生支部)が実行した2019年12月ゼネストを契機とした「組合潰し」の記録。
ゼネスト実施後、関生支部(略称・連帯ユニオン)組合員に対する弾圧、生コン製造業者の共同組織「大阪広域共同組合」との間での「労働基本権」の闘い。生コン価格の安定、賃上げ等労使間、ゼネコンと業者間の過当競争がその背景にあった。
経営側・警察・検察が一体となって、不当労働行為を刑事事件として恐喝罪、強要罪、威力業務妨害罪で89名を逮捕、71名が起訴された。さらに組合幹部に対しては逮捕、起訴を繰返し、1年9ケ月に及ぶ長期拘留を行った。
事件の背景には、経営側・警察・検察に刷り込まれた「組合に在籍していない会社に対する労働争議は存在しない」という間違った思考がある。
産別労組の場合、業界全体の労働者の条件改善求めて、組合員が在籍しない会社に対しても働きかけは認められる。正当な労働交渉権、団結権である。労働事件の刑事事件へのすり替えである。
昨年7月、大阪地裁は「威力業務妨害」で有罪判決を下した。被告側は「賃上げを求める正当な団結権行使」と無罪を主張した。
2019年12月、多くの労働法学者が記者会見で「憲法28条・勤労者の団結権、団体交渉権の保障に違反する」と発表した。
労働組合法1条は、「労組の団体交渉その他の行為で、対等の立場を促進することによって、労働者の地位向上させる目的達成のための正当なものは、刑法の免責が適用される」と規定する。
日本の労組は企業内組合がほとんどである。企業内組合は加盟労働者のいない労働争議を目的としない。産別労組に対する認識、知識は一般的に乏しい。
年初、連合の会合への野党党首出席に比して、岸田首相自民党総裁の挨拶が注目された。政権の親密さが明らかになった。
連合は労働者の代表から企業経営者、経団連ステークホルダーとしての労働者一部の代表でしかないことを暴露した。
連合は正規労働者のための組織、非正規労働者は無視される。労組組織率は17%、非正規労働者の組織率は6%、中小企業の組織率は0.9%である。
実質的に中小企業に労組は存在しない。あるのは産別労組としてのユニオン組織だけである。著者は中小企業向け労組「連帯ユニオン」に対する国家による弾圧と批判する。
事件の経過・事実は大きく報道されない。ネットは愛国ネット、ヘイト集団からの誹謗中傷であふれている。
「報道されない事実は存在しない事実となる」と著者は言う。メディアの責任は大きい。テレビ、大手新聞はゼネコン・不動産会社の広告収入がネック、圧力となり、報道を控える。
書名「賃金破壊」は中労委の審判の経営側準備書面「賃上げという不当な要求に対する損害発生?」という主張から導かれたと思われる。中小企業の労働事件はニュースバリューが少ない。
最近、ジョブ型雇用が注目されている。ジョブ型は産別労組が対応する。産別労組の理解が乏しく、メンバーシップ重視の労組・経営にジョブ型雇用の活用が可能だろうか?
労組に興味ある方、労務管理、労働法に関心ある人は、ぜひこの本を読まれることをお薦めする。