社労士・兵藤恵昭の独り言

団塊世代の社会保険労務士・兵藤恵昭のブログです。兵藤社会保険労務士事務所・内容は雑多です

いじめ、嫌がらせは職場体質に問題がある!

「大人のいじめ」坂倉昇平著・講談社新書2021年11月発行
著者は1983年生まれ、NPO法人POSSEの理事、ハラスメント対策専門家である。「ブラック企業VSモンスター消費者」の著書がある。
本書は「職場いじめ」の現場報告である。著者はハラスメント現場を長く見て来た。その体験から、職場いじめの本質と発生原因を明らかにする。
2022年4月より「改正労働施策総合推進法」いわゆるパワハラ防止法が中小企業に適用される。(大企業は2020年6月適用済)
法律はパワハラの社内での自主解決を趣旨とし、パワハラ自体の罰則規定はない。法適用により解決に向かうものではない。
本書は職場いじめに三つの特徴を挙げる。
①過酷な労働環境の存在。
②職場全体が加害者になる。
③会社によっていじめが放置される。
労働相談のトップは「いじめ、嫌がらせ」である。いじめによる精神障害等発生、最悪、自死に至る労災認定はここ11年で10倍に増加している。
多い業界は、トップが医療、介護、保育業界。次にメディア関連サービス業である。これらの業界に共通するのは人手不足と長時間労働である。
職場ストレスがパワハラに向かう。
近年、いじめ対象の労働者範囲が拡大している。二つの新しい労働者に対するいじめが増加した。
一つは、弱者である発達障害者(ADHD)労働者に対するいじめである。
ADHDの特性である「多動と衝動性」「不注意」落ち着きのなさ、注意力持続が困難に対する「見せしめ的いじめ」つまり新しい差別である。
二つは、経営に反抗的な労働者に対するいじめである。これは戦略的いじめである。
戦略的とは、いじめを会社の指示、指導によるものでなく、同僚労働者の自発的行為に偽装すること。
労働組合の不当労働行為を回避し、懲戒解雇の理由作りに同僚を加担させ、懲戒解雇をでっちあげる。
これら職場いじめは、反抗的労働者の矯正、排除、反面教師化、見せしめの効果を持つ。
過酷な労働環境でも従属的労働者を育て上げる。いわば「経営服従型いじめ」と言える。
「経営服従型いじめ」は次の三つのいじめパターンを重ね合わせて出現する。
①職場ストレス発散型。長時間労働、残業代未払いの不満を解消する。いわばガス抜きである。
心神喪失型。いじめ行為の継続で感覚が麻痺、いじめの善悪に対して労働者自身が思考停止となる。
③規律型。経営、市場論理に従順でない者は排除、矯正、見せしめになっても、会社規律維持のため、已む得ないとの考え方である。
職場いじめが深刻なのは、厳しい労働環境で働かせるために、上司、同僚含めて自発的にパワハラを行うほど、職場にいじめが浸透した。
更にパワハラ自体が一つの「労務管理のシステム」として機能していることだ。
なぜそうなるのか?
日本型雇用の終身雇用、年功序列制とは異なる別の特質があるためだ。
一つは「会社への従属」もう一つは「労働者間競争」である。
日本型雇用は「職務基準」が曖昧である。更に「評価基準」は客観性に乏しい。人物本位の評価は会社への従属関係と同僚間の競争を激化させる。
新自由主義とグローバル経済は、日本企業の人材育成力を低下をさせた。収益至上主義の短期決戦経営、目先の利益に集中する。
法律を改正し、相談窓口を設置しても、企業経営の基本構造が変わらない限り、パワハラはいつまでもなくならない。
結果、生まれてくるのは労働者の自己責任論だろう。労災基準の厳格化、障害年金申請、生活保護申請の困難さが証明している。
国への信頼はコロナ以降低下の一方である。小手先の対策ばかりでは国家そのものが沈没する。
必要なのは仲間作りと支援体制である。連帯と絆こそ重要である。そして労働者自身がもっと強くなること。