社労士・兵藤恵昭の独り言

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ジョブ型雇用制は日本で可能か?

「人事の組み立て・脱日本型雇用のトリセツ」海老原嗣生著・日経BPマーケティング2021年4月発行
 
著者は1964年生まれ、リクルートエイブリック入社後、人事コンサル会社を設立した雇用ジャーナリストである。
 
2020年1月、経団連は報告書を発表「日本型雇用制度の見直し、ジョブ型雇用は高度人材確保に効果的手法である」と主張した。
 
日本型雇用が経済成長の最大の障害とされ、ジョブ型重視、成果主義の声がさらに大きくなった。どの会社でも職務記述書(ジョブディスクリプション)論議が真っ盛りである。
 
本書は、日本特有の「ジョブ型雇用」の問題点、欧米雇用システムのモノマネがショブ型雇用の変質を招いたと主張。日本型雇用システムの未来像を提案する。
 
日本型雇用とは、新卒一括採用、終身雇用、年功序列と表現される。このシステムは高度成長期には有効に機能した。
 
人材不足、少子高齢化、低成長時代にはマッチしない。「働かないおじさん問題」が発生、欧米の雇用システムを輸入し、乗り越えようとする。
 
欧米雇用システムの歴史、文化を理解せず、明治時代同様、欧米様式をモノマネする。ここにガラパコス的日本雇用システムが出現した。
 
侍の姿をして、洋式の家に住むようなもの。雇用の矛盾と機能不全が日本の労働生産性をさらに引き下げる。
 
著者は言う。ジョブを職務と訳したことが大きな間違い。ジョブ型とはポスト、地位であり、人材ではない。この職務主義が職能主義と結合し、日本独特の中途半端な雇用システムが出現した。
 
日本型雇用は人に給与を払い、人に仕事を付ける。ジョブ型はポスト、地位に給与を払い、仕事に人を付ける。ここが大きく異なる。
 
欧米はポストが無ければ解雇する。日本はメンバーシップ型、ポストが無ければ、職務変更させ、ポストを作り、雇用継続させる。
 
なぜそうなるのか?日本の経営者、管理者は人事権行使が生きがいだからだ。人事権によって、人に給与の差を付けることが日本型の特色である。何時まで経っても、ジョブ型雇用が成立しない原因もここにある。
 
その経団連が人事権を放棄し、ジョブ型導入するとは、失敗が実施前から明らかである。まさにアイロニーである。
 
欧米の人事部は元々、給与計算屋にすぎない。米国も採用時の人種差別が最大の問題。故に人ではなく、仕事を重視した。
 
その後、経営力重視が進み、経営者直属のエリート層育成とノンエリート層に分離した。格差社会そのものである。
 
日本は社員全員で階段を上り、ボトムアップで一緒に成長する同質社会である。そこに人手不足、総人件費上昇が、異質の「非正規」を発生させた。
 
その非正規を助長したのが「企業内労働組合」である。欧米でジョブ型が成立したのは「ギルド」職人組合の存在がある。
 
日本型雇用を全否定しても、日本の雇用システムは成長できない。労働者の歴史、文化を理解したうえで、根本的に給与と仕事を区分する必要がある。
 
ジョブ型雇用を輸入し、役割給、業績給を新規導入するだけの中途半端な日本型雇用システムに未来はない。
 
かつて富士製鐵教育課長から明治大学学長となった経営学者・故山田雄一氏の次の言葉が日本の人事スタイルを象徴する。
 
「人事たるもの、企業内の事象を隅々まで知り、それを他人に明瞭に言い聞かせることが出来なければ、失格である」と。
 
従業員の能力評価基準、給与決定基準の透明性、客観性がどれだけ確保できるか?それが日本型雇用の最大の課題である。ジョブ型雇用を理解するには非常に参考となる本である。