社労士・兵藤恵昭の独り言

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国会召集先送り裁判(憲法53条裁判)初めて最高裁判断

(国会召集先送り裁判の最高裁判断)

安倍晋三内閣が2017年、野党が求めた臨時国会の召集に約3カ月間応じなかったのは、臨時国会の召集を定めた憲法53条に反するかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(長嶺安政裁判長)は2023年9月12日、「召集の遅滞により、召集要求をした国会議員の権利や利益が侵害されるとは言えない」との初判断を示した。

その上で、国に賠償を求めた野党の国会議員の上告を棄却し、原告敗訴とした1、2審判決が確定した。

(ただ一人、行政法の権威・宇賀克也裁判官が反対意見!)

最高裁憲法53条について審理するのは初めてである。

裁判官5人のうち4人が多数意見だった。約3カ月間、召集に応じなかった点が合憲か違憲かは言及しなかった。行政法学者出身の宇賀克也裁判官は損害賠償は認められるべきだとする反対意見を述べた。

(宇賀克也裁判官意見)

宇賀裁判官は招集要求から招集までの合理的期間を20日以内」と具体的に示し、臨時国会での審議を妨げられるのは議員の利益侵害」と主張する。

安倍内閣の対応は「特段の事情がない限り違法」として賠償命令が相当とする意見を付けた。

(当時の政治状況)

憲法53条は、衆院または参院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は臨時国会を召集しなければならないと定める。召集までの期間についての規定はない。

森友学園加計学園を巡る疑惑を追及していた野党は2017年6月に両院で臨時国会の召集を要求したが、安倍内閣が召集したのは98日後で、冒頭で衆院が解散されたため審議は実施されなかった。

臨時国会の召集)

憲法53条は「内閣は臨時国会の召集を決定できる。いずれかの議院の総議員の4分の1以上の議員の要求があれば、内閣は召集を決定しなければいけない」と定める。

召集までの期限について具体的な規定はなく、政府は「合理的期間内」に召集を決定することが義務と解釈している。

現行憲法下では計40回の召集要求があり、佐藤栄作政権時の1970年には、召集まで歴代最長の176日間を要した。

最高裁の多数意見)

判決は「召集要求がされた場合、内閣が召集決定をする義務を負う」とした上で「個々の国会議員の権利を保障したものではない」と指摘。個人の損害救済を図る国家賠償法の適用対象ではないとし、安倍内閣の対応の違憲性を判断せずに訴えを退けた。

国家賠償法は国家行政組織と国民個人との損害賠償救済の法律である。

国会議員は個人ではないのだろうか?

(過去の政府対応)

一、二審に続き最高裁も、重大な憲法問題から目をそむけた。憲法53条で臨時国会の召集を内閣の義務と定めている。政府がその義務を迅速に果たさない事態を、このまま常態化させて良いのだろうか?

野党の臨時国会の召集要求が放置された例は以前からあった。第2次安倍政権以降は特に顕著だった。

2015年9月に成立した安全保障関連法の運用などを巡って野党が召集要求した際は、応じないまま通常国会を迎えた。

2021年に80日間応じなかった菅政権は「憲法に召集時期の規定はない」などと反論し、召集の遅れを正当化した。

(日本民主主義の劣化)

「数の支配」が生じやすい国会で、53条は少数派の意見を尊重する重要な規定である。さまざまな国民を代表する国会議員たちの論戦の足場が失われることを放置すれば、53条の死文化にとどまらず、民主主義、立憲主義の劣化をも引き起こす。

最高裁には「憲法の番人」として、この危機的な状況に正面から向き合うべきではないだろうか?

(5人の裁判官の経歴)

長嶺安政裁判長(外務省官僚・特命全権大使出身)

宇賀克也(行政法学者出身)

林道晴(東京高裁長官出身)

渡邉真理子(弁護士出身)

今崎幸彦(東京高裁長官出身)