社労士・兵藤恵昭の独り言

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飲酒運転で懲戒免職、30年間勤務退職金ゼロ・血も涙もない最高裁判決

飲酒運転で懲戒免職となった宮城県立高校の元教諭が、退職金を全額不支給とした県の処分を取り消すよう求めた訴訟の上告審判決が2023年6月27日、最高裁第3小法廷であった。長嶺安政裁判長は3割相当を支給すべきだとした二審判決を変更し、県の処分を妥当と判断した。元教諭側の敗訴が確定した。

最高裁が公務員の退職金制限処分について判断するのは初めてで、小法廷は「処分が社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱した場合に違法と判断すべきだ」と基準を示した。裁判官5人中4人の多数意見である。

一、二審によると、元教諭は約30年間、同県内の高校で勤務。2017年、日本酒3合などを飲酒後に車を運転し、他の車と物損事故を起こした。懲戒免職となり、退職金約1725万円の全額不支給処分を受けた。

小法廷は、元教諭は車で飲食店に行き、長時間飲酒した直後に車で帰宅しようとしたと指摘する。「重大な危険を伴い、公務への信頼に影響を及ぼした」として、県の処分は妥当と結論付けた。

一審仙台地裁は元教諭の勤務態度などを考慮し、処分を取り消した。二審仙台高裁3割に当たる約517万円を支給すべきだと判断した。

本件は原告が懲戒免職処分と退職手当支給制限処分の取消しを求めた事案である。

(判決の要旨)

控訴審判決

 控訴審は、原告の酒気帯び運転の態様が相当に悪質であるとし、原告が管理職でないもののベテラン教員として担任や教科主任を務めており職への高い信頼が求められていたことから、懲戒免職処分は社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したとまでは評価できないとし、懲戒免職処分を有効としました。

 一方で、退職手当を全額不支給とした処分は裁量権の範囲を逸脱した違法な処分であるとして、3割である約517万円を支給しないこととした部分のみを取り消しました。

最高裁判決

 最高裁は、裁判所が退職手当支給制限処分の適否を審査するに当たっては、退職手当管理機関と同一立場に立って、処分をすべきであったかどうか又はどの程度支給しないこととすべきであったかについて判断し、その結果と実際になされた処分とを比較してその軽重を論ずべきではない。

退職手当支給制限処分が退職手当管理機関の裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、当該処分に係る判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に違法であると判断すべきであるとしました。

そして、原告が30年以上問題なく勤務していたことなどの本件の事情を考慮しても、県教委の判断は、社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとはいえないとし、退職金の全額不支給も有効としました。

(コメント) 

行政機関・県の裁量を広く捉えすぎており、批判の多い判決である。

酒の過ちで懲戒免職、老後の備え霧消、退職金ゼロはひどすぎる。裁判所は退職金有無、処分の軽重を判断すべきでなく、裁量の範囲逸脱、濫用の場合のみを判断する。最高裁の判断に処分相当性の判断はないのか?

唯一、宇賀克也裁判官のみ反対した。まともな裁判官は宇賀克也氏だけだろうか?秩序維持派、人間味のない裁判官たちと思うのは私だけだろうか?

この裁判官グループは、令和5年7月11日「経産省職員行政措置要求判定取消・国家賠償請求事件」でLGBTQ性的同一性をもつ労働者の女子トイレ使用を制限することは違法であると判決した裁判官と同じ。(裁判長は今崎幸彦氏)

時代の流れには敏感で、その意味で先進的でもある。しかし宇賀克也裁判官を除いて、秩序統制を優先する上から目線の姿勢は変わらないように見える。

(5人の裁判官の経歴)

長嶺安政裁判長(外務省官僚・特命全権大使出身)

宇賀克也(行政法学者出身)

林道晴(東京高裁長官出身)

渡邉真理子(弁護士出身)

今崎幸彦(東京高裁長官出身)

(判決文全文は下記をクリック)

092170_hanrei.pdf (courts.go.jp)