社労士・兵藤恵昭の独り言

団塊世代の社会保険労務士・兵藤恵昭のブログです。兵藤社会保険労務士事務所・内容は雑多です

「シルバー人材センター委託業務での労働事故」

(2022年9月18日、東京新聞に下記の記事が掲載された。)

「シルバー人材センターから紹介された草刈り中に片目を失明した高齢男性(当時74歳)が安全管理上の不備があるとして提訴し、2022年1月にセンターが和解金を支払っていた。」

センターは会員と雇用関係がないため、安全配慮義務がなく、提訴自体が異例である。会員の高齢化で全国的に事故率が上がり、重篤化の傾向もみられる中、長年あいまいにしてきた安全確保策の強化が課題に浮上している。

(事件の概要)

男性は2016年10月、74歳の時にセンターから紹介を受け、大阪府の私大構内を刈り払い機で作業した。現場は30度の急斜面。湿気で保護眼鏡が曇って足元が見えず、滑落の危険から外して作業していると、泥が左目に入った。数日すると激痛を感じ、病院でカビ菌が入ったと判明。手術を受けたが視力は失われた。

シルバー人材センターの傷害保険で支払われたのは治療費程度で後遺症の補償もない。

男性は「危険な現場を紹介すべきでなかった」と大阪地裁にセンターを訴えたが、センターは「安全対策は本人の責任」と主張していた。

和解を受け、自らも建設会社の安全衛生責任者を務める男性の長男(49)は「急斜面の草刈りはプロの仕事である。高齢者に任せきりなんてあまりにずさん。裁判しなかったら泣き寝入りだった」と振り返る。

(問題点)

「センターは法律上、安全配慮義務がない。センターが和解金を支払い、会員の安全確保の強化を確約した意味は重い。政府は高齢者を守る体制の整備を急ぐべきだ」と専門家は指摘する。

(事故は増加傾向、死亡など重篤事故も発生)

センターは「高齢者の生きがい増進」を目的に「軽易な仕事」などのあっせんが建前。しかし会員1000人中の就業中事故は、2011年度の4.9件が、2021年度は5.7件と増加傾向にある。

死亡と6カ月以上の入院を合わせた重篤事故も2021年度までの5年間で143件(死亡94件)起き、その前の5年の127件(死亡89件)を上回る。

埼玉県上里町では2021年9月、73歳の男性が、自走式草刈り機とともに斜面を転げ落ち、刃に巻き込まれ死亡した。

(シルバー人材センターの事故の実態)

2021年度には、シルバー人材センター会員1,000人あたり、就業中の事故発生件数は5.72件となっている。

会員の平均年齢は07年度まで60代だったが、21年度には74歳に上昇し、全国シルバー人材センター事業協会は「高齢化が事故発生率上昇の原因」と説明する。

労働安全衛生総合研究所の高木元也特任研究員は「高齢化で事故が起きやすくなる中、安全対策が追いついていない」と述べる。

(一般企業の安全管理義務)

一般企業の場合、安全管理責任者の配備や安全教育徹底など労働者保護が義務付けられる。

センター会員は個人事業主のため安全対策も働き手自身の責任で行う原則で、構造的に弱さがある。

就業中の事故について、すべて会員任せでは限界がある。センターは安全教育や保護具着用の徹底が必要だろう。

(シルバー人材センターとは)

短期・軽易な仕事を高齢者に紹介する公益法人で、高年齢者雇用安定法に基づき運営される。

原則、会員は個人事業主のため労働安全衛生法の定める安全配慮義務がない。市町村ごとに設立される。2021年3月時点で1303団体ある。

会員は60歳以上で、月10日、週20時間程度が労働時間の上限である。

平均月収は約3万5000円。企業への65歳までの雇用継続義務付けで勤め続ける人が増え、最近は入会者が減少している。しかし入会年齢は上昇傾向にある。

ピークの2009年度に79万人だった会員数は2021年度で68万人である。