社労士・兵藤恵昭の独り言

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コロナで働き方は変わったか?「仕事から見た2020年」

「仕事から見た2020年・結局、働き方は変わらなかったのか?」玄田有史・萩原牧子編・慶應大学出版会2022年3月発行
編者・玄田は1964年生まれ東大教授「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」の著書がある。萩原は1975年生まれリクルートワークス研究所調査設計・解析センター長。
本書は、リクルートワークス研究所が2016年から全国5万人の就業者の追跡調査を実施し、そのうち1万人の就業者につき、2020年、2021年のコロナ期の就業状態を調査した報告書である。
同一就業者を時間経過とともにその働き方を実証した意味で貴重な調査である。
本書の目的は、「コロナで日本人の働き方は変わったのか?」を問う。
結論は、「テレワークの普及、働き方改革改正で時間外労働の減少はあったもの、その効果は期待したほどの変化は無かった」と結論づける。
期待とは、正規・非正規の格差縮小、テレワークによる労働の多様性、流動性上昇、就業場所からの解放である。
テレワーク実施率は、コロナ前10%未満、緊急宣言期2020年5月に26.7%をピークに、202012月には12%に戻り、解除後には元の木阿弥となった。
就業継続は、休業手当支給によりある程度維持できた。雇用調整助成金は手続きの複雑さから一部の大手企業が利用の中心だった。その意味で大手企業正規社員の就業の安定性が突出している。
飲食、宿泊の中小サービス業は非正規の雇止め、人手不足から正社員の解雇は一定程度、踏み止まった。
一方、コロナで「雇用の二極化」が明確となった。即ち、正規・非正規の二極化、収入と労働時間の二極化。非正規の年収は正規の40%、時間当たり賃金は正規の55%、労働時間は正規の72%である。労働時間の長い割に収入が少ない。
それ以上の二極化は、「就業継続安定性の二極化」である。正規と非正規の安定性格差は収入格差より大きい。
もう一つの二極化は「都市と地方の二極化」である。東京など都市部は雇用機会多く、職種も多種多様である。
失職しても転職チャンスは地方より高い。テレワークの機会もある。都市と地方の地域格差はコロナで更に拡大した。
もう一つ、最近話題となった災害、公務対応労働者の長時間勤務問題に表れた「長時間労働の公務と民間との二極化」である。
時間外上限規制の月間100時間超過労死レベルの労働を余儀無くされる保健所就業者、公務員、地方公務員の特異的労働者層の出現である。
これらは以前からあった日本の「二重構造論」「二重労働市場仮説」を証明する。
大手企業と中小企業との格差は、内部留保の格差、教育・訓練の格差、デジタルの格差である。
必要なのは助成金政策でなく、労働者10人未満、100人未満の零細企業への人的資本の蓄積のための具体的政策である。
雇用安定性の高い大企業より、零細企業労働者のキャリアアップ制度の充実が企業間労働移動、世代内労働移動を促進する。
今回調査で興味深い点はスキルアップ、学びに対する意識である。
大企業のテレッワーク促進、通勤時間等短縮で、学習時間が増加してもコロナ前より、自己啓発の時間は減少している。
その理由は「学ぶ人には理由がある。しかし学ばない人に理由がない」からだという。労働時間の増減は無関係だろう。
それは米国との労働生産性の違いにも表れている。日本の労働生産性は米国の62%、労働時間は米国の96%である。
労働生産性は教育投資の多さに比例する。韓国、シンガポールの生産性が日本を超すのは教育投資の違いである。
米国人は日本人と変わらない働き者。しかし労働生産性は倍近く多い。故に日本の賃金が安くなる。
日本人は「物価が上がれば賃金が上がると考える。そうでなく、賃金が上がるから物価が上がるのだ」政治家も学者も考え方が逆である。
コロナ期でも日本人の働き方は変化なく、賃金も上がらない。そしてエンゲージメント(働き甲斐)も低下している。
看護師の退職増加は働きがいに問題があるからだ。
「新しい資本主義」「所得倍増」のスローガンより、人的資本の蓄積、雇用の二極化、格差解消の具体策こそ必要である。
なぜそれが進まないのか?結論を一言で言えば「労働者を真に代表する政治勢力がない」ことに尽きるだろう。
連合が企業数シエア10%未満の大手企業の代表になり下がり、反対に90%以上シエアの中小企業、就業者の4割のシエアを占める非正規を代表する政治勢力はどこにも存在しない。
その結果、コロナ後の労働調査が想定と現実との格差を示す大きな原因にもなった。