社労士・兵藤恵昭の独り言

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日本郵政の同一労働同一賃金対応策は正しいか?

(概要)

2023年5月24日、朝日新聞デジタル日本郵政グループが、2020年10月最高裁での同一労働同一賃金違反判決に対する対応策の報道があった。

それによると、日本郵政グループの最大労組であるJP労組(組合員23万人)との間で、正社員と期間雇用社員との間にある夏・冬期有給休暇日数を同一にする。

即ち、正社員に与えていた夏・冬有給休暇を3日から1日に削減する一方、期間雇用社員に対して夏・冬有給休暇を1日与える縮小変更である。これを労働協約で同意した。

これは正社員に対する不利益変更に該当しないか?その可能性は高いと思える。

(不利益変更とは)

「不利益変更」とは賃金、休暇、労働日数等の労働条件、待遇を不利益変更すること。不利益変更の要件は厳しく規定されている。

(不利益変更の方法)

不利益変更を行うには次の方法がある。

  • 従業員ごとに個別に同意を得て不利益変更を行う方法
  • 就業規則を変更することにより労働条件の不利益変更を行う方法
  • 労働組合との間で労働協約を締結し、労働条件の不利益変更をする方法
  • 人事考課に基づく等級の引き下げにより給与を減額する方法
  • 降格に伴い従業員の給与を減額する方法

(不利益変更禁止の原則)

労働基準法第1条の2)

「労働者の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」と規定されている。

(コメント)

労働協約による不利益変更は、特定の労働者、一部の組合員を不利益に取り扱う目的など、労働組合の目的を逸脱するものとして締結された協約は無効とされる。

特に、有給休暇は全ての労働者が持つ権利であり、労働条件の不利益変更と認められるケースが多い。

今回のように正社員の有給休暇を削減して、期間雇用社員の日数と辻褄を合わせることは縮小均衡となる。これは厚労省ガイドラインにおいても避けるべき事象と規定されている。

正社員と期間雇用社員を同一に扱うことは、正社員の役割、責任の違いを無視しており、単に低い水準に合わせる手法は法的にも問題がある。

今回のケースは、労働協約締結による就業規則の変更となった。その変更が合理的でかつ妥当な範囲内ならば許容される。

正社員の夏・冬期休暇減少は1/3の大幅削減であり、原則、個々の同意が必要とも言える。従って、社員から訴訟が起きれば、敗訴する可能性も大いにあるだろう。