社労士・兵藤恵昭の独り言

団塊世代の社会保険労務士・兵藤恵昭のブログです。兵藤社会保険労務士事務所・内容は雑多です

パワハラによる消防士の分限免職処分を認める最高裁判例

部下にパワハラを繰り返したとして分限免職処分を受けた山口県長門市消防本部の元消防司令補の40代の男性が、同市に処分取り消しを求めた訴訟で、最高裁第3小法廷は、二審・広島高裁判決を破棄し、男性側の請求を棄却した。

一、二審はいずれも処分を違法として取り消したが、2022年9月13日の最高裁判決によって、男性側の逆転敗訴が確定した。

判決によると男性は2008~17年、市消防本部の部下ら約30人に対し、バーベルを投げて頭で受け止めさせるといった暴行や暴言など、約80件のパワハラを行った。

長門市は、職場の人間関係や秩序を乱したとして、男性を「分限免職処分」とした。

「分限処分」は、業務の効率化を目的として、勤務実績や適格性の欠如などを理由に公務員を降格させたり休職させたりする制度である。

訴訟では、長門市が分限処分の中で最も重い「免職処分」を科したことの妥当性が争われた。

第3小法廷は判決理由で「一連の行為に表れた粗野な性格について、消防職員に求められる適格性がないとみることや、指導しても改善の余地がないとみることに不合理はない」と指摘した。

男性がパワハラ行為を告げ口した部下らへの報復を示唆していたことも挙げて、「(男性を)消防組織内に配置しつつ、組織の適正な運営を確保することは困難だ」と判断した。

一方、男性側は、消防組織の特殊な職場環境を考慮すべきだと訴えていた。

しかし最高裁は「分限免職処分が許容される限度を超えていないことは(男性の職場に)上司が部下に厳しく接する傾向があったとしても何ら変わるものではない」と退けた。

一審・山口地裁判決は、「男性の職場には粗暴な言動を助長する風潮があった」と指摘した。「パワハラが続いたのは個人の素質や性格だけが原因とは言えず、免職処分は違法」と判断した。

二審・広島高裁も、「パワハラは悪質で重い分限処分は避けられない。しかし(市側が)今日の社会的要請であるパワハラ防止研修を行った事実はうかがわれず、改善の可能性を十分に考慮したかも疑問だ」などとして処分を取り消す判決を言い渡した。

最高裁は、一連の行為に表れた粗野な性格について、「消防職員に求められる適格性がないとみることや、指導しても改善の余地がないとみることに不合理はない」と指摘した。

この点は民間企業と比して、公務員としての厳しい適格性、倫理性を求めるものである。一般企業のように改善指導の余地を最大限に認め、企業側に指導を求める姿勢とは大きな違いがあると思われる。

この結果、最高裁は最終的に分限免職処分を妥当、適法と結論付けた。

一般民間企業では、パワハラで懲戒免職処分はかなり難しいと思われる。今回の最高裁判決は、公務員の特殊業務性を考慮したものと判断すべきであろう。