社労士・兵藤恵昭の独り言

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再考「日本においてジョブ型雇用は可能か?」

雑誌・エコノミスト今週号に神戸大学准教授・江夏幾太郎氏が「ジョブ型に向けた人事改革のカギ」記事が掲載されている。
ジョブ型人事のポイントは「なにができるか?」でなく、「なにをさせるか?」に着目する点にあると言う。ジョブ型の人事施策の設計・運用は経営環境、労働市場の変化に応じて、柔軟に変更しなければならない。
しかし日本では、人事施策の透明性確保、弾力的な改定が困難であるため、ジョブ型施策は利用されない。
代わりに利用されたのが職能資格制度、職能給であり、長期的な能力開発を目的とした能力主義である。しかも職能資格制は人事施策の煩雑な変更が不要のため、一般化した。
日本企業は、バブル崩壊リーマンショックを経て、将来リスク準備と欧米の株主利益還元主義に対応して、内部留保を拡大し、人的投資を縮減した。またコストダウン要請から先行資本投資も低下させ、結果、生産性は低迷して、日本経済長期低迷の原因となった。
最近流行の日本型ジョブ型とは、キャリア初期では人材の内部育成型としての人事管理を実施、キャリア中期以後になると業績主義的ジョブ型の人事管理を行う二段階方式である。いわば前半と後半の接ぎ木的人事管理である。
ジョブ型人事管理はポストに必要な能力を従業員が主体的に形成、獲得することで機能する。そのためにはスキル、ノウハウの可視化、獲得機会の提供が企業側に求められる。
従来の能力主義は、キャリア開発の主導権を企業側が保持する。その目的は従業員の能力成長である。対価は他の従業員との競争に向けられる。いわば相対的評価である。
それに対し、ジョブ型の人事管理は、
①キャリア開発の権限を企業から従業員へ譲り渡す。
②自律的従業員が納得するキャリア開発の機会を会社側が従業員に提供しなければならない。
③企業の期待に沿えない従業員に対しては別のポスト、又は社外での活動の場を企業側は用意する。
以上の基本方針があって初めてジョブ型は有効となる。
単に、職務記述書、職務等級制度を作成すれば良いと考えるような簡単なことではない。
ジョブ型導入とは、経営者がこの人事方針の本質的な違いを十分に理解したうえで導入しなければならない。
江夏氏は、ジョブ型を導入する経営者にそれだけの覚悟があるだろうかと疑問視する。
日本企業は、能力主義、職能給を欧米流行りの人事制度の輸入と考え、表面的に導入した。ジョブ型雇用も、正社員の非正規化、正社員賃金削減の手段に変質しつつある。そのため日本の人事管理はいつまでたっても本物にならない。
偽物人事管理を日本型人事制度と言い訳する。今回もその過ちをまた繰り返すのだろうか?