社労士・兵藤恵昭の独り言

団塊世代の社会保険労務士・兵藤恵昭のブログです。兵藤社会保険労務士事務所・内容は雑多です

フリーランス新法とはなにか?

フリーランス新法の政省令に関する報告書)

公正取引委員会有識者検討会はフリーランス新法の政省令に関する報告書をまとめ、一カ月以上業務委託契約は同法の対象となるとした。

契約始期から終期までの期間が1カ月以上業務委託契約は、同法が定める7つの禁止行為の対象にすべきとしている。これにより6割の契約が規制対象になる。

同法は政令で定める期間以上行う業務委託契約において、委託事業者はフリーランスに対し、受領拒否や報酬減額など7つの行為を行ってはならないと規定している。

契約締結時の明示事項は、下請法の書面記載事項をベースに、報酬をデジタル払いにす場合に必要な事項など16項目を示した。

 

(7つの禁止行為とは)

フリーランス側の責めに帰すべき事由がないのに、成果物などの受領を拒むこと。

フリーランス側の責めに帰すべき事由がないのに、報酬額を減じること。

フリーランス側の責めに帰すべき事由がないのに、フリーランスに成果物などを返品して引き取らせること。

④通常の相場と比べて著しく低い報酬を不当に決定すること、いわゆる「買いたたき」である。

⑤正当な理由がないのに、指定商品の購入や役務の利用を強制すること、いわゆる「押し売り」である。

⑥クライアントのために金銭・役務など経済上の利益を提供させること。

フリーランス側の責めに帰すべき理由がないのに、成果物の内容を変更させたり、やり直しをさせたりすること。

 

フリーランス新法とはどのような法律か?)

フリーランス新法は、業務受託事業者(特定)業務委託事業者との間の業務委託、すなわち、B to Bの取引に適用されます。ここでいう業務委託とは、製造・加工、情報成果物の作成、役務提供の委託が含まれます。業種業態などによる制限はなく、また、下請法とは異なり、自家使用役務等も含まれることから、広範な取引が対象になる。

 

フリーランス新法の施行はいつ?)

第211回国会に提出され、令和5年4月28日に可決成立し、5月12日に公布されました。公布の日から1年6か月を超えない範囲内において政令に定める日から施行されます。令和6年秋頃施行の予定。

一言でいえば、「特定受託事業者」に「業務委託」をする「業務委託事業者」又は「特定業務委託事業者」に対して、一定の義務を課す法律です。

(特定受託事業者とは)

業務委託の相手方である事業者であって、次のいずれかに該当するもの
①個人であって、従業員を使用しないもの
②法人であって、1名の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの

特定受託事業者」は、個人事業主であっても、従業員を雇用している場合には「特定受託事業者」には該当しません、法人でも、他に役員がおらず、従業員も雇用していない場合には「特定受託事業者」に該当することになります。そのため、業務委託の相手方がいわゆる個人事業主であるからといって直ちにフリーランス新法の対象となるわけではない。

(特定委託事業者とは)

業務委託事業者であって、次のいずれかに該当するもの
①業務委託事業者のうち、個人であって従業員を使用する者
法人であって、2名以上の役員があり、又は従業員を使用するもの

(業務委託とは)

① 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること
②事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)

 

(主な内容)

(給付内容その他の事項の明示義務・フリーランス新法3条)

業務委託事業者は、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければなりません。また、特定受託事業者から書面の交付を求められたときは、遅滞なく、これを交付する必要がある。

当該義務に違反した場合には、公正取引委員会による勧告の対象となります(フリーランス新法8条1項)。
なお、この規制は、特定業務委託事業者に限られず、業務委託事業者に適用される規制であるため留意が必要である。

 

(報酬の支払期日等を定める義務・フリーランス新法4条)

特定業務委託事業者は、給付を受領した日(役務提供を委託した場合には、役務の提供を受けた日)から起算して60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において支払期日を定めなければならない。

報酬の支払期日が定められなかったときは、給付を受領した日が支払期日として定められたものとみなされ、また、上記の規制(フリーランス新法4条1項)に違反して報酬の支払期日が定められたときは、給付を受領した日から起算して60日を経過する日が支払期日と定められたものとみなされる。

また、再委託の場合には例外が設けられています。すなわち、元委託者から業務委託を受けた特定業務委託事業者が、その全部又は一部を特定受託事業者に再委託した場合、当該再委託に係る報酬の支払期日は、元委託の支払期日から起算して30日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において定める必要がある。

この例外が適用されるのは、再委託である旨、元委託者の氏名又は名称、元委託業務の対価の支払期日その他の事項を特定受託事業者に対し明示した場合に限られる

なお、この場合においても、報酬の支払期日が定められなかったときは元委託支払期日が報酬の支払期日とみなされ、また、当該規制に違反して報酬の支払期日が定められたときは元委託支払期日から起算して30日を経過する日が報酬の支払期日と定められたものとみなされる。

特定業務委託事業者は、原則として、支払期日までに報酬を支払わなければならず、これに違反した場合には、公正取引委員会による勧告の対象となる(フリーランス新法8条2項)

 

(特定業務委託事業者の遵守事項・受領拒否、減額等の禁止・フリーランス新法5条)

特定業務委託事業者は、政令で定める期間以上継続して行われる業務委託について、受領拒否、減額、返品、買いたたき、購入強制・利用強制の禁止、不当な経済上の利益の提供要請の禁止、不当な給付内容の変更・やり直しの禁止が定められている。

遵守事項の多くは、下請法の親事業者の遵守事項と同様の内容となっており、これらの解釈も下請法と同様の解釈となることが予想される。

これらの遵守事項に違反した場合には、公正取引委員会による勧告の対象となります(フリーランス新法8条3項乃至5項)

 

(募集情報の的確な表示・フリーランス新法12条)

特定業務委託事業者が、広告等で業務委託に係る特定業務受託者の募集に関する情報を提供するときは、虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない。

(以下のような表示は、当該規制に違反する表示と考えられる)

・意図的に実際の報酬額よりも高い額を表示する
・実際に募集を行う企業と別の企業の名前で募集を行う
・報酬額の表示が、あくまで一例であるにもかかわらず、その旨を記載せず、当該報酬が確約されているかのように表示する
・業務に用いるパソコンや専門の機材など、フリーランス自ら用意する必要があるにもかかわらず、その旨を記載せず表示する
・既に募集を終了しているにもかかわらず、削除せず表示し続ける

 

(業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等。フリーランス新法14条)

特定業務委託事業者は、セクシャル・ハラスメント、マタニティ・ハラスメント、パワー・ハラスメント等に関して、特定業務受託従事者からの相談、適切な対応のための体制の整備等の措置を講じる必要がある。

(具体的には下記の内容が考えられる。)

①ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、従業員に対してその方針を周知・啓発すること(対応例:社内報の配布、従業員に対する研修の実施
②ハラスメントを受けた者からの相談に適切に対応するために必要な体制の整備(対応例:相談担当者を定める、外部機関に相談対応を委託する
③ハラスメントが発生した場合の事後の迅速かつ適切な対応(対応例:事案の事実関係の 把握、被害者に対する配慮措置

 

(解除等の予告・フリーランス新法16条)

特定業務委託事業者は、災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合などを除き、継続的業務委託を中途解約する場合や更新しない場合には、30日前までに予告をする必要があります。また、特定受託事業者が、契約の解除の理由の開示を請求した場合には、特定業務委託事業者は遅滞なく開示しなければならない。

(予告が不要となるケースは下記が想定される。)

天災等により、業務委託の実施が困難になったため契約を解除する場合
②発注事業者の上流の発注者によるプロジェクトの突然のキャンセルにより、フリーランスとの契約を解除せざるを得ない場合
③解除をすることについてフリーランスの責めに帰すべき事由がある場合(フリーランス契約不履行や不適切な行為があり業務委託を継続できない場合等)

 

(違反行為の申し出、勧告、命令等)

特定受託事業者は、フリーランス新法の規定に違反する事実があるときは、公正取引委員会又は中小企業庁長官に対して、その旨を申し出て、適当な措置を講じることを求めることができるフリーランス新法6条1項)

業務委託事業者は、かかる申し出を理由として特定受託事業者に対し、取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならずフリーランス新法6条3項)

これに違反した場合には、勧告の対象となる(フリーランス新法8条6項)

 

(実務対応時のポイント)

フリーランス新法への対応のためには、まずは、自社の個別の取引にフリーランス新法が適用されるかどうかを確認する必要がある。

具体的には、①取引の相手方が、特定受託事業者に該当するか、②委託する業務がフリーランス新法上の「業務委託」に該当するかを確認することになる。

さらに、③継続的業務委託にあたるか否かによって、義務の内容が異なるため、これに該当する否かも把握していく必要がある。

①については、取引先に対して、従業員の有無等をヒアリングで確認するという方法や取引先が法人であれば登記事項証明書の事項も確認するという方法も考えられる。

もっとも、一旦、特定受託事業者に該当するかどうか確認したとしても、従業員の辞職等により、特定受託事業者に該当することになるという例も想定され、特定受託事業者に該当するか否か、適時に把握することは容易ではない。

フリーランス新法を確実に遵守する観点からは、少なくともいわゆる個人事業主に対して業務委託をする場合には、適時に特定受託事業者に該当するかどうか確認しつつも、特定受託事業者の該当性にかかわらずフリーランス新法の義務を遵守できるような体制を整えておくことが必要である。