社労士・兵藤恵昭の独り言

団塊世代の社会保険労務士・兵藤恵昭のブログです。兵藤社会保険労務士事務所・内容は雑多です

マンションの「二つの老い」

「60歳からのマンション学」日下部理絵著・講談社+α新書2022年4月発行
著者はマンション管理士管理業務主任者試験合格、管理会社勤務を経て、現・マンショントレンド評論家。「負動産マンションを富動産に変えるプロ技」の著書がある。
最近、子供が自立したシニア層が広い住宅を売却して、駅近の便利なマンションに移り住む動きがある。いわば終の棲家としてのマンションである。だがそこには多くの落とし穴がある。
本書はマンションの二つの「老い」を語る。一つは居住者の老いであり、もう一つはマンション建物の老いである。
2020年、分譲マンションは総数675万戸。そのうち建築後30年超経過は232万戸、全体の34%を占める。人口減少からマンションの新築数は頭打ちである。人口同様にマンション高齢化も避けられない。それでも金融緩和からマンション高額化は進む。2022年の東京23区の新築平均マンション価格は9,687万円、1995年バブルピーク時の6,123万円を上回る。
一方、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は433万円(民間給与実態統計調査)世帯の平均年収は1995年をピークに下がったままでいまだ回復していない。
実際の購入者は夫婦共稼ぎで世帯収入1,000万円を超えるパワーカップルと言われる。億ションとも言われるタワマンの購入者は実需よりも投資、転売、節税目的になり易い。
高騰している歪な不動産マーケットを、投資、転売目的以外で支えているのは、日本の富裕層である。更に円安で海外の富裕層も日本の不動産市場に参入してきた。
マンションの老いで問題となるのは大規模修繕工事の資金不足問題である。マンションは15年ごとに大規模修繕工事が必要となる。最初の15年経過時は大きな工事費用は掛からない。2回目の30年以降は増え、3回目の45年となると多くの施設が寿命となる。
大規模修繕工事は平均一戸当たり150~180万円程度必要となる。30戸なら5,000万円。毎月工事積立金を積み立てていれば問題ないが、共有部分の管理費支出もあり、積立ては抑えがちである。
積立金不足防止のため、マンション管理組合が「修繕長期計画」を策定、見直しをすることが必要である。積立て不足のマンションは35%あると言われる。
多くの管理組合は、マンション分譲会社系列の管理会社に管理を丸投げする。居住者は出費と手間を抑える。マンションのコミュニティすら成立していないマンションも多い。
行政は2022年4月より「管理計画認定制度」を発足させた。行政がマンション管理体制をチェックする制度である。
マンショントラブルのトップは騒音問題、次にマナー問題。騒音で殺人事件まで起きた事例もある。
マンションにエレベーター設置義務があるのは高さ31m以上である。6階以下は設置義務はない。4階でもエレベーターが無くば、シニアには厳しい。
マンションの資産価値は建物、立地条件だけでなく、マンション管理のマネージメント能力のレベル、コミュニティの善悪に大きく左右される。終の棲家となればなお一層である。
この点は賃貸マンションでも同じである。賃貸は家主がシニア世帯の居住を避ける傾向もあり。困難さは更に増すだろう。
年金は減る一方、物価は上がる。恵まれたシニア世代と言われながらも、徐々に住みにくい世の中になってきた。
民主主義もマンションも健全なコミュニティが大切。それが崩れれば、不安社会となる。シニアの反乱が発生しても不思議はない。
 
Sigeru Hira