著者は1948年生まれ、日本生命出身でライフネット生命創業者、立命館アジア太平洋大学学長、読書家として有名。
李世民には重要な側近が居た。房玄齢、杜如晦、魏徴の3人。前者2人は父の代からの側近。魏徴は殺された李建成の側近。
「私を殺せと言ったのはお前か?」「そうです。貴方のお兄さんがもっと賢く、もっと早く貴方を殺して居れば、私は犯罪者にならなかった」と答えた。李世民は返答を聞き、魏徴を側近にする。
李世民は言う。「以降、片時も離れず、私の悪口を言い続けて欲しい」と、諫議大夫(諫言を言う側近)に抜擢した。
「人生意気に感ず、功名、誰かまた論ぜず」(人生は心意気、功績、名誉ではない)と思いを残し、魏徴は李世民に忠誠を尽くす。
李世民の処分は兄弟二人だけ。兄弟の側近は一切処分しなかった。宗家後継争いに限定し、二人の責任に抑え込んだ。
大事は小事から起こる。一人ですべてをカバーできない。部下に徹底的に任せる。なぜそうするかをきっちりと説く。
信のない言葉では人は動かない。その人の誠実さ、言葉の信念を、部下は簡単に見抜く。この原則を李世民は理解していたのだろう。
貞観政要は魏徴との問答に多くを割いている。最も信頼された側近である。
名君の条件は二つ。権限を部下に与えたら、権限は部下のもの、信頼してすべて任せる。もう一つ、諫言、苦言、忠告を受け入れる。
ここまでできれば、間違いなく名君。普通の人間には難しい。統治の難しさから言えば、それだけの徳と信が無くば、リーダーは務まらないことを意味する。
兄弟を殺すのが名君か?の疑問もある。フランス人類学者エマニエル・トッドは言う。
日本、韓国は、親子関係権威主義同居家族、兄弟関係不平等の長男主義の「直系家族類型」長男を尊重する。
中国、ロシアは、同じ親子関係権威主義も、兄弟関係平等の「外婚制共同体家族類型」兄弟対等である。地域の価値観の違いだろう。